絵を描く者にとって描くドウキは様々にあり、私たちを取り巻く環境や時代背景の中で、様々な日常の出来事から影響を受けています。昨日から今日へ、今日から明日へといった時間的連鎖のなかで個々の動機/ドウキが醸成されて行く訳ですが、画家が向かい合う画面には、その断片が堆積して行き、その痕跡が作品を形作るのだと云って良いでしょう。
日本の絵画表現は、地形的な条件や歴史の流れの中で、美術史的に特異なものとして異彩を放って存在しているように感じられます。私達日本人にとっての画面とは、F(Figure)・P(Paysage)・M(Marine)というフォーマットの四角い(矩形の)画面ではなく、生活に密着した様々なかたち(屏風、衝立、襖、天井画、軸物、絵巻、扇面、団扇、旗、幟、着物、化粧廻し、千社札、絵馬、奉納額、看板、お札、緞帳、垂れ幕など)に、その源泉をみることが出来るのではないでしょうか。
この国の文化の中で育まれてきた多様な形式の画面をもとに、様々な解釈と発想を加え作品を展開していく本展の試みは、新たな表現の可能性を感じさせるものになることでしょう。
会期中には、展示と関連するイベントとして、「カタチに潜むドウキ」というテーマで、十四代今泉今右衛門氏・十五代酒井田柿右衛門氏の陶芸家のおふたりをゲストに迎えた、出品者によるギャラリートーク、世界中の様々な地域の文化を見てこられた探検家関野吉晴氏による「ヒトの文化の多様性はどの様に作りだされたか」と題した講演会を予定して居りますので、是非足をお運び頂ければと思います。
※本展示は多くの来場者を迎え、好評のうちに会期を終了致しました。
会場へ足をお運び下さった皆様、本当に有り難うございました。
キョウノドウキ実行委員会について
「キョウノドウキ」というタイトルの展示企画は2014年に武蔵野美術大学通信教育課程日本画コースで教鞭を執る講師陣・スタッフ・卒業生が、互いの利害関係や年齢差による意識の違いを乗り越えて、新しい表現を探求して行こうという目的で展覧会を企画したことからスタートしました。「描く」という行為への様々な動機の鬩ぎ合いの中から、今迄気付かなかったもの・無かったもかも知れないものを見つけ出して行ければと考えて活動しています。昨日でも明日でもない、今、現在の意識に重心を置くという意味で「今日の動機/キョウノドウキ」というタイトルを冠した展示発表を行っています。